清水秀高「神雷の龍」|滝を登り切った鯉、その先を刻む江戸切子

滝を登り切った鯉が、龍になる。

清水秀高「神雷の龍」は、中国由来の「登竜門」の故事を、江戸切子のロックグラスへと展開した作品です。

龍の身体を走る鋭いカット、暗雲を思わせるマットな表現、そして稲妻。正面だけでなく、底面には龍が宝玉を掴む姿まで描かれ、グラス全体でひとつの場面が構成されています。

「昇滝の鯉」の、その先を描く

「神雷の龍」は、清水秀高氏が先に発表した作品「昇滝の鯉」に続く一作です。

清水氏自身が掲げたテーマは、「滝を登り切った鯉は龍になる」。これは、中国の故事「登竜門」に由来する意匠です。

古くから、龍門の滝を登り切った鯉が龍へ変化するという物語は、困難を乗り越えた先の飛躍や成就を象徴するものとして、日本の工芸や美術にも取り入れられてきました。

前作が「龍になる前」の鯉を描いたものだとすれば、「神雷の龍」はその物語の先にある姿。二つの作品を知ることで、この龍が単独の装飾ではなく、ひとつの物語の到達点としてつくられていることが分かります。

小さな道具で、龍の威風と躍動感を刻む

この作品で清水氏が意識したのは、龍の「威風」と「躍動感」です。

龍の顔、髭、鱗、爪、身体の流れを、細かな道具を使いながらガラスの表面へ切り込んでいく。写真で見ると絵画的に見えますが、線の一本一本はガラスを削ることで生まれています。

伝統文様を規則的に連ねる江戸切子とは異なり、龍という生き物の動きを線の強弱や方向で表す必要があるため、同じカット技術でも求められる表現は大きく変わります。

暗雲、稲妻、雷鳴までを一つのグラスに

江戸切子「神雷の龍」の龍と稲妻のカット

龍だけを見せるのではなく、その周囲の空気までつくり込んでいることも「神雷の龍」の特徴です。

雲はあえてマットな質感に仕上げ、光沢のある龍や鋭い稲妻とのコントラストを強調。暗雲から稲妻が走り、雷鳴が轟く情景を、動きのあるカットで表現しています。

さらに底面には、龍が宝玉を掴む姿を配置。正面から眺めるだけでは完結せず、手に取り、回し、底から覗くことで作品の全体像が見えてきます。

一客ごとに、龍の表情が少しずつ異なる

一客ずつ手作業で仕上げられるため、雲の表情、龍の顔や角度、鰓まわりの毛の動きなどには個体差があります。

同じ「神雷の龍」という作品でありながら、完全に同じ表情にはならない。その違いも、量産品ではなく職人が直接ガラスへ刻む作品ならではの要素です。

中学2年で出会い、2010年に伝統工芸士へ

清水秀高氏が江戸切子と出会ったのは、中学2年生のとき。百貨店の伝統工芸展で職人の仕事を目にし、その場で江戸切子職人になることを決めたと語っています。

1992年、高校卒業後に師匠へ弟子入り。2007年に清秀硝子工房を設立し、2010年には国の伝統工芸士に認定されました。2020年にはキヨヒデガラス工房を設立しています。

「神雷の龍」は、2024年の第4回テーブルウェア新作展にも出品された作品。伝統的な切子技術を用いながら、龍や雷という具象的な世界をグラス全面に展開しています。

清水秀高「神雷の龍」

江戸切子|キヨヒデガラス工房|清水秀高|クリスタルガラス|ロックグラス|口径約82mm × 高さ約90mm

滝を登り切った鯉が龍へ変わる「登竜門」の物語。その先に現れた龍を、暗雲、稲妻、宝玉まで含めて一客のグラスに刻んだ「神雷の龍」。見る方向によって場面が変わる、物語性の強い江戸切子です。

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